みんなの金融リテラシー

金融リテラシー入門:テーマ「住宅購入」ダイジェスト版

全15章からなる「金融リテラシー入門」の講座のうち、「住宅購入」の授業をダイジェスト版でお届けします。

ボーナスの「使っていい額」教えます 使う勇気も大切

女性は貯蓄が得意、でも「貯蓄の休息日」も必要

ボーナスを貯める人は7割以上

7月に入り、待ちに待ったボーナスシーズンがやってきました。経団連の調査によると、この夏のボーナスの支給金額は過去3番目の高水準で、平均約92万円だそうです。ただ、この数字は大手企業のもの。実際にはこれより少ない人、ボーナス自体がもらえない人もいます。それもあってか、マネー相談に訪れるお客様には、ボーナスが入っても贅沢をせずに、コツコツと貯める傾向が強いように思います。

実際に、価格.comが20代〜60代の約2,400人を対象に行った調査によると 、ボーナスを「貯金」するという人は75.5%をも占めています。これは「商品・サービスを購入する」(67.6%)よりも高く、ボーナスの使い道の中でトップです。貯蓄にまわす金額も平均で約20万円 と、昨年より6%増えています。ボーナスは使うものではなく、貯めるものという意識が強くなっているようです。

女性は貯蓄が得意! 貯蓄疲れに注意を

特に、女性は貯蓄志向が強いと感じます。男女平等とはいわれながらも実際には女性の給与水準が低いことや、結婚・出産によるキャリアの分断、男性よりも平均寿命が高く、老後が長いといったリスクを早いうちから意識しているためのようです。

女性のそんな危機意識は、ライフプランを立てるうえで大きな強みです。「何とかなるさ」と無計画にお金を使ってしまうより、もしもに備えてお金をためておくのは賢い選択です。ただ、行き過ぎた貯蓄への強迫観念が、人生の生きづらさを生んでしまっているようにも思えてなりません。

お金を貯めることが最大の目的になってしまって、お金を使って豊かに暮らすことをイメージできなくなってしまっているように思うのです。「貯蓄疲れ」を防ぐためにも、ボーナスの時には、少し自分のためにお金を使ってみてはいかがでしょうか?

いくらまでならボーナスを使っていい?

「使ってよい」といわれても、どれくらい使ってよいのでしょうか? これは、すでにある貯蓄や生活費から判断するのがおすすめです。もし、いま手元の貯蓄がゼロ、もしくは借金があってマイナスなら、まずは貯蓄をプラスにすることを優先したいものです。そして、生活費の半年分から1年分の金額を目指しましょう。仮に今の生活費が月20万円なら、120万円〜240万円です。

この金額は、「いざという時のための緊急用貯蓄」として、すぐに引き出せる普通預金や現金で持っておきます。これがあれば、もし体調を崩して仕事を休職することになった、仕事を辞めて転職活動をすることになったなど、収入がダウンしたときのバックアップになります。また、親の病気や介護など、身近な人のピンチにも充てられます。

すでにこれ以上の貯蓄があるなら、近い将来に必要な資金があるかどうかを考えてみましょう。もし、留学をしたい、独立してお店を開きたいなど、まとまったお金を使う予定があるなら、そのための貯蓄を考えます。たとえば、5年後までに100万円を貯めたいとき、ボーナス1回で10万円、年に20万円貯めれば5年で達成できます。

ただ、これは「夢をかなえるための貯蓄」です。生きていくために絶対になくてはならない貯蓄ではありませんから、あまり無理をせずに貯めていきたいものです。マネーのご相談に来る女性の中には、貯めるために過度に生活を切り詰めてストレスが溜まってしまう、「貯蓄疲れ」のストレス解消のために、せっかく貯めた貯蓄を切り崩してバーゲンでお買い物をしてしまい、結局貯まらないという人が少なくありません。そして、後に残るのは貯蓄ではなく、お金を使ってしまった罪悪感だけなのです。

自分への投資としてお金を使うチャンス

結婚、出産を意識する女性にとって、20代〜30代はプライベートでも、キャリアや収入でも、大きな変化を避けて通れません。さらに先の将来に、シングルのまま老後を迎える不安も少なからずあるでしょう。そんな不安を解消するために、お金を貯めておくのは一つの手です。

一方で、不安を解消し「自分を守るためのお金」という考え方とは別に、「自分を活かすためのお金」という考え方も、豊かな人生には大切ではないでしょうか。そのためにお金を使える絶好のチャンスが、年に2回のボーナスです。「いざという時のための緊急用貯蓄」がある、「夢をかなえるための貯蓄」が少しでもあるなら、ボーナスすべてを貯蓄する必要はありません。むしろ、自分のために使う勇気を持って良いのです。

たとえば、旅行に行くとリフレッシュになるうえ、新しい環境、社会、文化に触れて視野を広げることもできます。そこから新しい仕事のアイデアが沸く、天職に出合うきっかけにもなるかもしれません。あるいは、日頃はなかなか行けないレストランなどに行ってみるのも、新しい学びがあるかもしれません。もしかしたら、運命の出会いだってあるかもしれません。たとえドラマティックなことが起きなくても、自分のために時間とお金を使える豊かさは、「貯蓄せねば」と凝り固まっている気持ちをほぐし、前向きな考え方をもたらしてくれるはずです。それが、結果としてより高い収入、経済的なゆとりにつながる可能性だってあります。お金を使うことは必ずしも悪いことではなく、ハッピーを引き寄せるカギになることもあるはずです。

しかも、コツコツと貯蓄に勤しむなかで、ときには「貯蓄の休息日」を作ってあげることが、挫折せずに貯蓄を続けていく秘訣にもなります。

長い人生は、さまざまな不安との闘いの連続でもあります。自分のためにお金を使うことは、闘いを生き抜くエネルギーを養い、不安を乗り越える自分に成長するための投資にもなりえます。ボーナスが出る人も、出ない人も、この時期には「お金を貯めなきゃいけない」というしがらみを一度外して、楽しく使うことも考えてみてはいかがでしょうか。

クレジット

文/加藤梨里

プロフィール

加藤梨里(かとう・りり)

ファイナンシャルプランナー(CFP認定者) マネーステップオフィス株式会社代表 保険会社、銀行、FP会社を経て独立開業。家計、保険などお金のセミナー、執筆、相談を行う。働く女性のライフプランと健康にも関心があり、慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科特任助教も務める。

マネーステップオフィス:http://moneystep.co/