すぐ捨てないで! 後悔しない給与明細の正しい見方
いくつ知ってる? 給与明細と税金の仕組み
新年度が始まりましたね。異動などで環境が変わった人も多いことでしょう。新入社員のみなさんは、少し新しい職場に慣れてきたでしょうか。今回は、社会人に欠かせない「給与明細」がテーマ。意外と知らない人も多いので、この機会にしっかり認識しておきましょう。
給与明細書の見方を知りましょう。
みなさんこんにちは、経済エッセイストの井戸美枝です。第2回のお金にまつわる“知っておきたい、ちょっといい話”は、お給料明細について。
あなたは、自分がいくらお給料をもらっているか、今すぐ答えられますか?(新入社員の方はこれからですね)
お金を貯めるには、きちんと収入を把握して、その範囲内でお金を使うことが大切です。自分の収入を知るためには、毎月会社からもらっている給与明細書をチェックしましょう。自分がどれくらい働いて、どれくらいお給料をもらったか、そして税金をどれくらい納めているか、などいろいろなことが分かります。
ここで お金のキホン チェック!
ここでクイズです。下の図、給与明細の例を見てください。

どれだけ知ってる?給与明細
問題1
実際に手元に残る金額はどれでしょう?
1.総支給額計 2.課税対象額 3.差引支給額
問題2
保険証があれば医療費の3割が自己負担となりますが、そのために支払っている保険はどれでしょう?
4.雇用保険料 5.厚生年金保険料 6.健康保険料
問題3
入社1年後の6月から、給料から天引きされる税金があります。それはどれでしょう?
7.所得税 8.住民税 9.共済会費

答え合わせをしてみましょう。
問題1の答え
実際に手元に残る金額は、3.差引支給額です。
実際に手元に残る金額、いわゆる「手取り」は、総支給額から税金や社会保険料などを差し引いた額になります。差し引くことを「控除」といいます。
控除されるものには、誰でも差し引かれるもの「法定控除」と、会社の制度や人によって差し引かれるかどうか異なる「その他の控除」があります。
税金や社会保険料は「法定控除」で、財形貯蓄、社内貯金、会社独自の組合費などは「その他の控除」になります。
会社からの支給額と、みなさんの手元に残る手取り額は異なりますので注意してくださいね。
問題2の答え
医療費が3割負担になるために払っているのは、6.健康保険料です。
日本では、国民全員が何らかの健康保険に加入することが義務付けられています(国民皆保険といいます)。
会社に勤めている人は、全国健康保険協会(協会けんぽ)や組合管掌健康保険(組合健保)などに加入しています。個人経営の事業所に勤めている場合は、国民健康保険です。どの健康保険も、医療機関に保険証を見せれば、かかった医療費の3割を負担するだけで、全国どこでも平等に医療サービスを受けられます。
健康保険は、治療をはじめ、治療のための診察や検査に適用されます。美容目的の施術や出産は病気ではないので、健康保険は使えません。また、差額ベッドや食事代、 保険適用外の先進医療 、 人間ドッグ・予防接種など直接治療に該当しない費用も健康保険の適用外になっています。
健康保険料を毎月計算するのは大変なので、次のようにして決められます。
4月、5月、6月の3カ月間の給与を平均して、等級表にあてはめて保険料計算の基礎となる「標準報酬月額」を7月に決めます(9月から翌年8月まで適用されます)。これは、社会保険のみなし月収のようなもの。実際の給料とは異なります。この標準報酬月額は50等級に区分されています。
その標準報酬月額に、一定の保険料率をかけたものを会社とわたしたち従業員が折半で負担します。つまり、会社が健康保険料を半分支払ってくれているのですね。
保険料率は加入する健康保険によって異なっています。東京都協会けんぽの場合、平成28年度の率は9.96%。標準報酬月額が28万円の人は2万7888円の半分で、1万3944円を給与から天引きされています。
お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、4月から6月の間、いつもより残業が多く給料を多くもらった場合、保険料が高くなってしまうかもしれません。注意したいところですが、仕事がたまっていればそうもいってられませんよね。割り切って頑張りましょう。
問題3の答え
入社1年後の6月から引かれるのは、8.住民税です。
住民税は、前年の所得額に基づいて計算され課税されます。ですので、前年の所得のない新入社員の方は、住民税はかかりません。
税率は基本的に一律10%です。
注意が必要なのは、会社を辞めた時です。たとえば転職して給与金額が変わった場合でも、前年の所得額に応じて住民税を支払うことになります。転職して給料が減ってしまうことが分かっている場合、翌年の住民税のお金をあらかじめ用意しておきましょう。
また、住民税は1月1日現在住んでいる都道府県に納めます。たとえば、1月2日以降に他の市町村に引っ越しをした場合でも、1月1日に住んでいた市町村に前年の1月1日から12月31日までの1年間の住民税を納付することになります。
もう少し詳しく給与明細について見てみましょう。
給与明細の見方
会社によって書式は異なりますが、給与明細書には大きく分けて3つの項目があります。
1.「勤怠」は、出勤データの項目です。
「出勤日数」「欠勤日数」「残業時間」「特別休暇日数」などが記載されています。
2.「支給」は、会社から支払われるお金の明細の項目です。
「基本給」「非課税通勤費(月10万円までが非課税)」「時間外手当」「家族手当」「職務手当」などが記載されています。
それぞれの会社の規定によって、「基本給」が、「本給」や「職能給」「資格手当」など、細かく分かれている場合があります。
3.「控除」は、差し引かれるお金の項目です。
控除されるお金には、主に税金と社会保険料の2つがあります。
ここでは、さきほどのクイズでは触れなかった所得税(税金)と厚生年金保険(社会保険料)について、ご説明しましょう。
<所得税>
所得税は、毎月の給料から通勤費(10万円まで非課税)と社会保険料(非課税)を引いた金額をもとに、配偶者や子どもなど扶養する人数に応じて、天引きされる金額が決まります。
税率は5〜45%で、所得が多いほど高くなります。ただし、毎月天引きされている金額は仮のものです。本来であれば所得税から差し引くことのできる生命保険料控除などが反映されていないことや、途中で扶養家族が増えることもあるからです。正確な計算は、12月の給与支払いの際に、年末調整して精算されます。
<厚生年金保険>
年金は、老後に受け取るものですよね。
しかし、それ以外にも事故などによって障害が残ったり死亡した際、本人や家族に年金が支給されるという保険の役割も担っています。
保険料は、会社と従業員が半分ずつ負担します。「標準報酬月額」x「保険料率」で計算します。厚生年金の標準報酬月額は30等級に分かれていて、4〜6月の報酬の平均額で決まり、その年の9月から翌年の8月までの1年間利用されます。健康保険と同じです。
平成28年度の保険料率は、17.828%。標準報酬月額28万円の方は、4万9918円の半分2万4959円が給与から天引きされます。
このように、給与明細書を見ると、実際に支払われた手取りの金額や、税金や社会保険料をいくら支払ったかが分かります。
また、手取り額を知る以外にも、捨てずに置いておくことで、税金や社会保険料の推移を確認することもできます。私たちが払っている税金の額は、毎年同じではありません。
万が一、勤めていた会社が突然倒産して離職票を発行してもらえず、失業給付の申請ができない、未払いの残業代などの請求を会社に行いたい、といった場合、給与明細書が証拠書類となります。
失業給付の確認期間や賃金請求期間は原則として過去2年となっていますので、最低この期間分は保管しておくと安心です。
文/井戸美枝 イラスト/いいあい
『この記事は、日経ウーマンオンライン(http://wol.nikkeibp.co.jp/)に 2016年4月13日に掲載されたものです。無断複製・転載を禁じます。(C)日経BP社』